茶碗蒸し

ひとこと

再び音楽を聴くためのディスクガイドたち

や、子育て中はもう子供のことで手一杯で音楽全然聴かなくなっちゃいました。

最近は少し余裕ができたので新しい音楽聴こうかなと思うんですが、高円寺のスモールミュージックはなくなっちゃし、御茶ノ水のジャニスは遠いし(小さくなったし)なかなか新しい音楽見つけるのも難しくなりました。ま、スポティファイとかもありますけど、あれのオススメはおい、AIちゃんと働けや!てくらいこちらの心に響かないんですよね。。。

そんなあなたにオススメしたいディスクガイドたちです。

本読むほうが曲聴くよりも短時間ですむもんね。この本を読んで気になった曲をようつべで調べるのがベタームーブっしょ。(うーん

 

①イサーン 旅するタイ・イサーンディスガイド

旅するタイ・イサーン音楽ディスク・ガイド TRIP TO ISAN

これはねえ。。。すっごくよい本(絶句)

辺境系ディスクガイド(?)で不満なのは知らない国の音楽なわけだから、バックボーンも知りたいわけですよ、こちらは。でも、ほとんど載ってないんですよね。ほかのガイドは。この本は違いますよ。もうとにかく、歴史!タイの歴史から「モラーン」と呼ばれるタイの音楽に迫っていく超絶構成。めちゃ手間かかってる。ライターくずれが版元から頼まれてはぜっっったいに作れないライターの人生を突っ込んだ名著。

ちなみにモラーンってこんな音楽。


タイ イサーンの音楽

夏!サマージャム2018って感じですよね。この本買わなかったら絶対聴かなかっただろうジャンル。ありがとうsoi48。いい仕事してますなあ。

 

 

②ブラック・マシン・ミュージック

ブラックマシンミュージック ディスコ、ハウス、デトロイトテクノ

坂本龍一だったかな、ビハインドマスク、YMOの曲ね。あれをマイケルジャクションがサンプリングしたいみたいな話があったそうなんですね、流れたそうですが。それで細野さんかな、黒人はジャストなリズムが大好きなんだ。だからデトロイドテクノが生まれたんだね。みたいな事を言ってたんですね(超うろおぼえ)

それ忘れてたんですけど映画のデトロイドとか、ドントブリーズとかまあデトロイド映画みたこともあって、そういえばと思い出したんですよ。で、買ったのがこれ。

やっぱ、歴史!

歴史を知ることで音楽が深まっていく、これがガキにはまね出来ない大人の聴き方!

この本も1979年のキル・ディスコから1998年の最新(当時のね)のデトロイドの今と昔が詰め込まれている。

長いんで要約すると、デトロイドテクノは反逆の音楽、抑圧されたマイノリティが作り出した音楽ってこと(たぶん)。ディスガイドとはチト違うけど、巻末に詳細なリストがあるから座して読むべし、聴くべし。デトロイドテクノは直線!ってイメージこんな風に。


Cybotron - Clear

 

 

③スタジオボイス 伝説の名盤300

STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2003年 01月号 [特集 伝説の名盤300選]

名盤系で一番信用しているのがコレ!

年別に名盤を紹介しているとりあえず1970~2000年くらいはこれで抑えられる。一枚づづ、ブックオフで買うんだ!

手元にないから何が書いてあったかわからないが、ニューオーダーの「権力の美学」は載っていたはずだぞ、マストリッスンだ!世界で一番美しいロックだぞ。


New Order - "Leave Me Alone"

それじゃ、良い音楽生活をとりもどしてくださいーほんわかぱっぱ~

 

頼む! ブックマークか、読者になるボタンを押してくれ!

このままじゃmixiと同じようにモチベーションが続かないっ

 

~新社会人に読んでほしいちくま文庫たち~

いやー、新社会人の皆様、あなたは今五月病を突破するために、なにか本を読もうとしてるんじゃないですか。そうでしょ、や、わかります。でもね、ビジネス新書?ああゆうの読んでいちゃ同期に差をつけられないですよ。

ここはひとつね。やはり「ちくま文庫」を読むことをお勧めします。

なぜかって、本棚に並べると背表紙がかっこいいからです。王様のブランチで言ってましたが、新潮文庫の3倍、講談社文庫の7倍かっこいいと言われてからね。

ちくま文庫の超かっこいい背表紙にうっとりしながら、仕事にも役立つ本、紹介します。(本気

①「食の職」新宿ベルク 安くて本格的な味の秘密

「食の職」新宿ベルク: 安くて本格的な味の秘密 (ちくま文庫)

ベルク知っています?そうです、あの新宿駅東口改札から丸の内乗ろうとすると、あれ、なんかここ雰囲気違う...みたいな一見喫茶店のような立ち飲みバーのような不思議な装い、そうです、そこがベルクです。

全都民に愛されている(ただしビルオーナーは除く?)ベルクの副店長さんが書かれた本です。これはベルク本の第二弾で一冊目は旦那(相方?)の店長さんが書かれてましたね。そちらよりこっちのほうが読みやすいのはベルクに関わる職人さんたちのインタビューが乗っているからかしら。

まあ、読んでみるとね。

働くとはなんだ! テメー、本気でプライドもって働いてんのかテメー!!!

という声がページめくるたびに聞こえてくる、そんな力強い文庫です。

ビールの味の変化を業者に伝えるとき、図形で表す。。。というくだりがあるんですが、それ、もうアートフォームじゃん!って感じでかっこいいんですよね。

やっぱ働くからには、こういうプライドもって働かないとね。続かないよ。。。

おい、ルート営業に文句言って、会社やめてカフェでも開きたいとか言ってるお前!まずはこれを読んで襟をただせ、ブックオフなら100円で転がってるぞ!

 

②独特老人

独特老人 (ちくま文庫)

独特老人 (ちくま文庫)

 

 いいか、新人、こういう言葉がある。

老人笑うな、行く道だから。子供叱るな、来た道だから。オレはこの言葉を確か。。。火サスかなんかで聞いてガーンと衝撃を受けた高2の夏って感じなんだけど、やっぱ高齢化社会ですよ。街を歩けば、ゾンビのような老人の行列ですよ。でもやっぱりね、リクルートスーツ着たあなたも老人になるわけですよ。となるとね、どういう老人になりたいかモデルケース、もしくはプラトンがいうイデアが必要なわけですよ。で、なりたい老人像に狙いを定めて日々を生きていく。それが2020年代にサヴァイブする我々の必修項目ですよ。

で、この文庫。

ま、簡単に言うとスゲー老人にインタビューしてみたら、やっぱりスゴクてワロスって内容なんですけど、インタビューされている老人は誰か?

水木しげる、山田風太郎、淀川長治、吉本孝明、鶴見俊介、沼昭三エトセトラエトセトラ。

ね、ちょっと。。。あれかな?22才くらいの人にはしげる以外わからないような気もするけど、まあ、昭和の偉人達ですよ。背表紙にこう書かれています。

「老人とは前線であり、前衛である」

え!前衛ってフルクサスみたいなヤツ?ああいうのって若者の特権じゃないの?と思うでしょ。でも、やっぱりね、人生の先頭突っ走ってるのは、老人達なんですよ。

この老人達の力強い言葉がね、文庫中にあふれてます。でもね、どっか哀しい。それはね、ほとんどの方がね、もう亡くなっているの。だからインタビューの言葉にジーンとしてももうその老人はいないんだよね。そういう熱量と哀しさが一体となってる素敵な文庫なんだよ、座して読めよ。ブックオフでも700円くらいするかもしれんが、元が1500円だかららしょうがない。ファミチキ買うのやめて、こっち買おう。そして一人の老人を自分の心の師と決めて、何とか生活をしのいでいきましょうよ。。。

 

③定食バンザイ!

定食バンザイ! (ちくま文庫)

定食バンザイ! (ちくま文庫)

 

 結局さ、新人の仕事はいかにランチをおいしく食べるか、そこにかかっているわけですよ。だって、それ以外楽しいことないでしょ、会社で。というわけで改めて定食の力強さを認識できる名文庫。読み方によってはプレ‐めしばなタチバナと言える安くておいしそうな定食をこれでもかと紹介してくれます。

まあ、ただアホみたいに吉牛食ってたら、何にもなりゃしませんよ。街の定職屋に入ってね、ああ、ここは家族でやってるんだ、おいちゃんが厨房、おばちゃんがレジ、やあハムエッグ定食なんかがあるぞ、これはキープしておいて本日の焼き魚は何か聞いてみよう、ああ、でもおばちゃん忙しそうだな、なんとかおばちゃんの仕事を楽にしてあげたいな、とか考えながら食べるんだ! そういうやつがリクルートコミュニケーションなんかに入って色んなサービスを生み出していくんだ!こんな風に!

店舗経営を、テクノロジーによってシンプルでカンタンにしたい──飲食店も経営するエンジニアが新サービスに込める思いとは? - はてなニュース

まあ、たぶん違うけど。あ、最近ブックオフでは見かけないですなあ、この本。

~新社会人に読んでほしい幻想文学たち~

新社会人の皆さん、5月病ですか?

そろそろ退職届をだして、ピースボートでイエイしたいなあと思っているあなた!

まあまあちょっと落ち着いて幻想文学でも読んで、この世の事なんて全て幻だと諦めて始業前に会社行ってやる気アピールしなさいな。なせばなる、なさねばならぬほにゃららら。

ということで新社会人に読んでほしい、これを読めば明日から上司の受けがメッチャ良くなる本をご紹介います。

 

①冥土 内田百間

冥途・旅順入城式 (岩波文庫)

冥途・旅順入城式 (岩波文庫)

 

 いやー、秋葉好きの上司いるじゃないですか、たぶん。で、まーメイドカフェ行ってるヤツもいると思うんですよ。そこで「や、自分も好きなんですよ冥土、えカフェ?、え?」といった感じでアンジャッシュ的からみができる一品。

短編集で4~10ページで終わるもの電車で読みやすいですね(正論

や、とにかく幻想小説は速度なんですよ! 大体、物語として破綻しているんだからバツッ終わらなきゃだめですよ。バッとね。そう意味では冥土は全部速いですから、幻想文学の王道ですね。

あと百間先生文章もかっこいい。いいですか、引用しますよ。いいですか。

高い、大きな、暗い土手が、何処から何処へ行くのか解らない、静かに、冷たく、夜の中を走っている。

フーッ、どうですよ。やばいでしょ。まず、句読点の区切り! このカッティングの良さ!ギターでたとえると向井秀徳! そして土手が夜を走るという表現!これ、開始一ページ目のしょっぱなから書いてありますから、まずここでやられてください。

まあ、話としては土手沿いの店に入るとなんだか客が影みたいではっきりしない、はっきりしないんだけど話している内容で、アレ死んだお父さんじゃない!?って気づいて声をかけるんだけど影はもういないみたいな、そういうちょっとセンチな話なんですよ。まあ、とりあえず読んでみてください。岩波文庫なのに表紙全部が絵ですから、岩波も相当押してますよ、コレ。

 

②ムントゥリャサ通りで

ムントゥリャサ通りで

ムントゥリャサ通りで

 

 宗教ハマッてる先輩、いるじゃないですすか。やっぱ難しいですよ、無宗教の人間がそういう人と話し合わせるの。でもエリアーデ、この人知っておくとそういう人とも上手くやっていけます、これまじ。ルーマニアのえらーい宗教学者さんなんですね、エリアーデ。そっちの本では「聖と俗」「シャーマニズム」なんて本があるみたいです。よくしらんけど。

で。

ムントゥリャサ通りで。絶対一回では覚えられないこの題名のこの本。

もしかしたら新社会人のあなた。新しい環境になったし、ひとつ「百年の孤独」でも読んでみるか。。。とか思ってませんか?甘い!無理!だってアレ長いから!あと同じような名前いっぱいでてくるから無理!

それに比べるとこっちは162pしかない!あと話しの構造はあっちと一緒ですよ(乱暴)社会主義っぽい世界の中に、あきらかに空想としか思えないエピソードがどんどん入ってきます。ゲシュタポっぽいやつに元校長が尋問されるわけですよ。話としてはそれだけ。でもね、その元校長が話す話がどんどん横道や過去、空想のような話にそれまくるわけね。あーこれはほら吹き爺さんの話だなあと思うとやられてますよ、エリアーデに。中盤過ぎると、アレ、コレほんとの話をゲシュタポっぽいヤツにわからないように話してる? アレ本当はどっち?みたいな状態になるんですよね。で、最終的にはスパイ映画を見終わったような満足感が残る不思議な幻想小説です。

引用しましょうか?

「すなわち、もしいつか、人の住んでいない、水が溜まった地下室があったならば、どんなものかしりませんがしるしを探せ、そしてそのしるしが揃っていたら、その地下室は魔力にしばられていて、そこからあの世に渡っていけると考えていいものです」

「それは本当の話かね」ドミュトレスクは微笑しながら叫んだ。

はい、いや、読んでいる最中ずっとそれは本当の話か!とこっちが言いたくなる小説です。えーと、新社会人に話を持っていくと、まあ、こう、無理そうな案件振られるときあると思うんですよ、ね、そういうときにドミュトレスクの気持ちになって「それは本当の話かね」といってやりましょう。あれ、君もしかしてエリアーデ読んでる?ってなる可能性は0じゃない・・・

 

 

 ③笙野頼子三冠小説より 二百回忌

笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

 

 えっと、新社会人なんだっけ君は、でも冥土からここまで読むころに時は過ぎ、立派な中堅サラリーマンになっていると思う、おめでとう!

ということで中堅サラリーマンにつき物なのは法事よ、法事。ね。おじーちゃんももおばーちゃんも死んじゃうからね。そうなると法事の心構えも必要なわけよ。ま。これよんでおけば法事については大体わかりますから、ま、一種のハウツー幻想文学です。

あらすじですか? はじめの一行が全てを物語っていますね。はい、これ。

私の父方の家では二百回忌の時、死んだ身内もゆかりの人々も皆蘇ってきて、法事に出る

おっとちょっと待ってくれ、どういうことだと思うでしょ。まあ、幻想文学ですから、そこは、ね。でも、この断言力すごくないですか。「法事にでる」と言い切ってる。らしい、じゃあないんですよ。でるったらでる、この断言パワー。ビジネスの世界でもね、やっぱい初めに断言、結論を言う、これはね。大事ですよ。ちょっとでも曖昧なまま進めてしまうと必ず痛い目にあいます。あなたのような中堅は油断してますからね、これ読んで身を引き締めたほうがいいんじゃないですか(上から

これも短いです。59pしかない。でも色んなことが起こります。もうめちゃくちゃ。でも根本は家族愛の話なのかな...

三冠小説というだけあって、これは三島由紀夫賞とってますね。

 

以上、新社会人に読んでほしい、五月病対策幻想文学でした~

 

 

 

 

 

3、4巻で完結してラストが気持ちいいマンガ達

rsutotogetterで風呂敷が畳めないという記事が面白かったのですが、そもそも長いからあかんのや!

「広げた風呂敷が畳めない」漫画の話~例えば浦沢直樹を中心に/夢枕獏は「そもそも不要」論! (2ページ目) - Togetter

ということで2~4巻くらいで完結していて、しかも終わりが気持ちいい!というマンガをまとめてみました。

 ①ヴィオニッチホテル 3巻完結

フリクリ好きな人ははまるんじゃないかな。

さびれたリゾート地、覆面プロレスラー、褐色のメイド魔法使い、ゾンビメイド、幽霊、ロボット捜査官、殺し屋に練らされるインテリやくざ等々、ごった煮の登場人物とスカしたストーリー回しで気持ちよく最後まで読ませてくれます。

ゲーム花と太陽と雨好きだった人はマストバイ!

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

ヴォイニッチホテル 1 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

 

 

 ②ベントラーベントラー 3巻完結

え、これなんのSFの賞もとってないの?でおなじみベントラ。

異性人、ロボット、クローン、パラレルワールド、タイムトリップ、秘密組織...SFに必要な要素全部いり。最終話は物語としての広がり方が本当に気持ちいい。少し哀しいんだけどね。。。今ならブラックお役所ものとしても読める、早すぎる傑作。

ベントラーベントラー(1)

ベントラーベントラー(1)

 

 ③船を建てる 2巻完結

 うおおおおお、傑作! ブローディガン好きなやつはマストバイ!

これほどやさしさにあふれたマンガは他にないです。

リンカネーションってほど大げさではないけど、過去の哀しい出来事があるから今が尊いと教えてくれるラスト、感涙必須。2巻、や、分厚いですけどね。

船を建てる 上

船を建てる 上

 

 ④星屑ニーナ 4巻完結

 未来版ピノキオ。福島聡は起動旅団じゃなくこっちを読め!

ヒロインのお姉さん、ニーナが魅力的なんですよ。これも宇宙、ロボット

時間、などSF要素てんこ盛り。最後は、あ、そうくるか! あれ、そーなるとあの人は?みたいな感じなります。エー傑作。

星屑ニーナ 1巻 (HARTA COMIX)

星屑ニーナ 1巻 (HARTA COMIX)

 

 ⑤イハーブの生活 2巻完結

小路先生死んじゃいましたね。

しかも寝そべる形の自転車で事故って死ぬという自分のマンガのエピソードっぽい死に方。もっと読みたかったなあ。

でイハーブ。村上春樹の小説に更にファンタジックな世界観をぶっこんだような作品です。最後?母の愛、最強! 久々に読み返したらマザコンマンガでした、あ、あれ?

イハーブの生活 上 (マッグガーデンコミックス EDENシリーズ)

イハーブの生活 上 (マッグガーデンコミックス EDENシリーズ)

 

 終わりです。やっぱり短い連載はアフタヌーン、ビームが強いやね...

孤児 ファン・ホセ・サエールを読んで

水声社がだしているフィクションのエル・ドラードが何冊か手に入ったので感想を書いてみたいと思う。

まずはファン・ホセ・サエールの孤児から。

孤児―フィクションのエル・ドラード

孤児―フィクションのエル・ドラード

 

ファン・ホセ・サエールはアルゼンチンの作家で孤児は1983年に出版された。 

簡単にあらすじを書くと、

15世紀。孤児であるわたしは、見習い水夫として、インディアス探検船団に乗り込む。数人の仲間と現地調査のため陸地に上陸すると現地人に襲われ、わたし以外は皆殺しにされる。わたしは原住民につれられ、なぜか殺されず、原住民の村で暮らし始める。彼らは食人族である。彼らの殺された仲間も食われる。熱狂的に、トランス状態になりながら食べる。食べ終わると村全体が虚脱状態になり、やがて回復していく。回復したあとの彼らは紳士的で森の清き民のようにみえる。そして一年が過ぎ、彼らはまた食人行為をする。わたしと同じように捕虜をひとりだけとりながら。なぜ、彼らは人を食べるのかー

物語の構造としては、孤児=何ももたないものが異界=ジャングルに行き、また戻ってくるという形をとっている。アクションとしては前半の原住民に襲われて村に運ばれるところで終わり、あとは原住民、ジャングルに相対する主人公の思弁、哲学的な問答に終始する。それでもページをめくらせる力があるのは、なぜ彼らは人を食べるのか、そして主人公はなぜ食べられないかの謎がずっと残っているからだ。そしてこの謎は絶対に解けない。原住民の言語が完全にわからない主人公にには推察することしかできず、それは同時に読者が自分の結論を導く猶予を与えてくれている。

自分の推論はこうだ。

原住民たちは不思議な厭世観がある。そして彼らはそれに我慢ができない。世界から自分たちが切り離されているような感覚をどうにかして払拭しようとする。年に一度、人を食べることによってこれを無理やり打破しようとする。なぜ、主人公は殺されないか?彼は原住民にとって錨のような存在だと思う。食人という野蛮な行為に突き進みながらも捕虜を一人とることで、この行為を理性的な、制限された行為に仕立て上げているのだ。そしてその捕虜を丁重に扱い、保護することで彼ら理性を証明し、元の生活に戻る手がかりにしているー

 

読んだ後、呆然としてしまったのはこういった哲学、人生観を持った人間達がこの世のどこかにいたかもしれないという衝撃だ。自分の環境、時代とは違う。でも本当に違うといい切れるか。どこか原住民達が抱いているかもしれないこの世に対する不信感は自分の中にも確かにある。それを打破するとためにどんな手段をとることができるだろうか。そんなことを考えると出口のない長い廊下にいるような、そんな気がする。